囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
プロローグ






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 神隠し。

 そんな言葉を昔は使われていたようだ。
 普通に過ごしていた人間が、神様に攫われてたかのように忽然と姿を消してしまうというのだ。
 当事者にさえ、予告や予知などもなくその場所から消えてしまうのだ。そのため、神隠しが身近に起きると恐怖を感じてしまい、どこに飛ばされてしまったのか、殺されたのではないか。そんな風に不吉な事ばかり噂として周囲に伝えられるのだ。それが、いつしか大きな「神隠しは怖いもの」だと、言い伝えられるようになっていた。
 けれど、それは昔の話。いや、誰かが作った物語だったかもしれない。


 この世界には神隠しなどは存在しない。
 人が消えるのには原因があるのだとわかったのだ。


 突然消えた人々は、全世界で1年に3.4人ほど。殺人事件や家出などもあるので、正確な人数はわからないが、不可解な失踪はこれぐらいなのだ。

 そして、その人たちはどこに行ったのか。
 10年に1度ほど、行方不明になり異世界に行った人が戻ってくる事があった。
 その人達は、ほとんどの記憶がなくなっていたが、こことは違う魔法や妖精がいる国であったと、夢物語のような話をするというのだ。しかも、断片的ではあるが、戻ってきた人々が話す内容は同じだと言う。


 異世界には「シャレブレ」という名前の国がある事。
 そして、妖精の力を借りて魔法が存在する事。
 まるでRPGゲームのような世界が広がっているというのだ。


 その話は全世界で注目を集め、シャレブレに関する書籍やゲーム、アニメ、ドラマや映画なども数多く作られており、シャレブレに行きたいと願う人々も多かった。




 けれど、朱栞は、全くもって興味がなかった。
 いや、なかったはずだった。



 ずっと片思いをしている彼が、行方不明になってしまうまでは。

 もう会えない。
 自分がシャレブレに選ばれるはずはないのだから。
 そう悲しんでいた。


 彼がいなくなってから数年後、日常がガラリと変わるとはその時の朱栞には到底想像もしていなかった。


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