囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
そう言って姿を表したのは、1人の異国風の男性だった。
堀の深い顔は小さく整っており、瞳は浅瀬の海のように薄い水色。髪色は黒よりのダークブラウンで少し猫っ毛のふわふわしている。そして、妖精とは違い彼は言葉の言葉がわかる。それは日本語ではない。スペイン語だった。
けれど、朱栞はそれどころではなかった。その男性はありえない姿をしていたのだ。男性の周りを飛んでいる妖精のように、背中に羽がはえているわけではない。
彼は巨人のように大きいのだ。自分の何倍もあるだろう、高さに唖然と見上げるしかなかった。
「ビックリさせてしまってごめん。この世界へようこそ。俺はずっと待っていたんだ」
そう言うと、男はその場にしゃがみこみ朱栞の前に両手を置いた。男らしいゴツゴツとした白い手を皿のようにしている。そして、優しく「おいで」と、微笑んでいる。
彼は誰なのか。そして、待っていたとはどういう事なのか。
ここはどこなのか。
彼に聞きたいことは沢山あった。
けれど、言葉が出てこない。どうしていいのかわからないからだ。
知らない場所に、知らない妖精や巨人。
すでに朱栞の頭の中はパンクしてしまいそうだった。
この差し伸べられた手に自分の小さな手を伸ばすべきなのか、逃げるべきなのか。それさえも判断出来ないのだ。混乱で選べないわけではない。
全て、知らないことばかりで、決められないのだ。
けれど、そんな思考がぐるぐると回っている頭でも、ある考えだけは浮かんできた。
もしかしたら、という思いが頭を過ったのだ。
「………こ、ここは………シャレブレですか?」
緊張しすぎていたようで、喉はカラカラに渇いており、声は強張って震えてしまった。精一杯の声と慣れたスペイン語でしゃべったつもりだったけれど、小鳥のように小さな声になってしまっていた。こんなにも言葉を伝えるのに緊張してしまったのは、初めて秘書の仕事をした時以来だった。自分のつたない外国語は社会でも使えるのか。相手の反応を待つ時間はとても長く感じのを今でも覚えている。その日と同じ気持ちだった。
目の前の大きな男は、目を大きくして驚いた様子だったが、すぐに安堵した表情へと変わった。
「そうだよ。妖精の国、シャレブレに、ようこそ」