囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
彼が、話した通りラファエルが帰ってくると、朱栞が居る場所まで彼が訪れて「ただいま」と言ってくれていた。王子を迎えもしない婚約者なんて、本来ならば無礼な事だったのだろう。朱栞はそんな風に思いつつも、冷静に考えられなかった。
彼が何かに魔力を使ったのは明確だ。となれば、そんな強大で彼の気持ちが怒りを表しているほど安定しない事は何なのか。どんな事をしてきたのか。
それを聞きたいが、怖くて聞けるはずもなかった。
「シュリ」
「は、はい」
「今日は一人にしてごめんね。変わりの夜は時間を作るよ。今日は何をして過ごしていたのか教えてくれ。もちろん、君の素敵な物語の話を聞くのでもいい。それが俺の楽しみだからね」
「わ、私もラファエルに話したい事があったの。聞いてくれる?」
「もちろん。じゃあ、俺は仕事の整理と着替えをしませてから食事をするよ」
「待ってるわ」
「ありがとう。それじゃあ、また」
ラファエルは朱栞の頭を撫でると、颯爽とホールからいなくなる。
王子の後には何人もの部下がおり、朱栞に小さく礼をした後に彼について行ってしまう。
そんな部下たちは共通して、腰に長い剣や、短剣、拳銃などの武器おさめられているのがわかる。シャレブレでは武器の所持は認められていない。が、認められている人たちもいる。王子の護衛隊や警備隊だ。この国では魔法が使えるのでほとんど武器はしないようだが、それでも武器を目の当たりにすれば誰でも緊張感をもつ。犯罪の抑止力になるだろう、とラファエルは朱栞に教えてくれていた。
そんな物騒な部隊を引き連れて帰ってきたのだ。やはり、危険なことがあったのだろう。
今になって気づけば、近くに居たメイナや他のメイドたちも緊張した面持ちであった。
ラファエルは何か危険な事をしている。
朱栞は、そう確信したのだった。