囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
☆☆☆
「ラファエル様、遅いですね」
「仕事なのだから仕方がないわ。それにしても、いつもラファエル様はどこで仕事をなさっているのですか?」
「地下室だと思います。そちらに向かわれるのを何度か拝見したことがあったので」
「地下室なんてあるのね。……地下室といえば、牢屋や拷問場所のイメージだけれど」
「……異世界はそんな怖いところなのですか?」
「違うは。ファンタジーでの城の地下といえば、そんな場所に設定している物語が多いだけよ」
朱栞は苦笑しながらそう返事をしたが、メイナはまだ警戒した雰囲気で朱栞を見ていた。
彼女は異世界にいいイメージも悪いイメージもあるようだ。全てが幸せではない元の世界。それは当たり前の事だと思う。けれど、メイナがあまりに純粋な反応をしてくれるので、何だか元の世界を嫌いになってしまわないか心配になる。
ラファエルを待っている間、朱栞はメイナとそんな話をしていた。ラファエルの城はとても広い、部屋も多い。そのため知らない場所などまだたくさんあった。朱栞が入ってはいけない場所も多く、迂闊には部屋を訪れられないのが現状だった。
「お城の事もまだ知らない事ばかりね。今度、お掃除をしにお邪魔しようかしら」
「シュリ様、それはいけませんと、何回も申しておします。王子の婚約者様に掃除や料理などをさせるわけにいきません」
「別に私は気にしないのだけど……」
「私たちと世間が気にするのです」
すっかり朱栞のメイドらしくなったメイナに朱栞は苦笑しながら「わかりました」と返事をした。朱栞を警戒していたメイナが嘘のように、今では朱栞に注意するようになっていたのだ。強くなりすぎて困ってしまう事もあるが、それでも頼もしい。まだわからない事ばかりの異世界。そして、王子の婚約者としてのマナー。それを覚えるためには、多少厳しいぐらいが調度いいのかもしれないな、と朱栞は思うようにしていた。
年下に怒られると言うのは少し切ない気持ちになってしまうのは、自分だけの秘密だったが。