囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
それからしばらくして、ラファエルは食事の場に姿を表したので、メイナも食事の準備に向かう。
ラファエルの魔力はいつも通りに戻っており、表情も穏やかだ。今ならば聞けるかもしれないと思いつつも、近くにはリトもいる。リトは、きっと朱栞が仕事の事を口を出すのは嫌がるのではないか。真面目なリトなので、そんな風に朱栞は思っていた。そのため、この場では詳しくは聞けないと、その時は当たり障りのない話をして終わったのだった。
今夜の夕食は軽めに作られていた。
ラファエルと朱栞が部屋で果物や菓子をつまみながら話しをする。きっと彼がそう伝えていたのだろう。ラファエルの私室には、たくさんのみずみずしい果物や甘い香りが漂う焼き菓子が準備されていた。どれも朱栞がこの国で好きになったものだ。それを把握しているのは、ラファエルかメイナか。たぶん、両者だろう。朱栞はありがたく思いながら、葡萄に似た黄色の果実を1粒とって口に居れた。柑橘系の甘酸っぱさがお気に入りだった。
「さて、先にシュリの話しを聞きたい。話してくれる?」
「えぇ、もちろん」
大きなソファに隣り合って座っているラファエルの距離は近い。しかも、腰に手をまわして朱栞を近寄せているので、肌が触れ合っている状態だった。緊張をしないわけではないが、なるべく冷静を装いながらゆっくりと口を開いた。
「ずっと考えていた事なんだけど。私がこのシャレブレ国で出来る事は何かなって考えてたの。元の世界では秘書として、異国の言葉を武器にして仕事をしてきた。けれど、この世界では何の役にも立たないわ。だけど、何かあるはずだって。そこで気づいたの。メイナやホープ、そしてラファエルに話した異世界の物語。私はそれを人より多く知っている。だから、それをこの国の人達に伝えるのはどうかって。メイナやホープはとても楽しそうに物語を聞いてくれていたし、今でも楽しみにしてくれてる。ラファエルもそんな人々の笑顔を見て、喜んでくれるっておもったから。どう、かな?」