囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
彼の笑みと声音はとても穏やかで、朱栞を安心させるものだった。
そして、自分の予想が当たっていたことに、朱栞は少しだけ安堵した。
シャレブレは遠い世界であるはずだが、朱栞たち元の世界の人間達にとっては近い存在だった。誰でも1度は、どんな世界が広がっているのだろうか、と想像したことがあるはずだ。妖精と空を飛んだり、魔法を使ったり、魔獣を倒したり。
そんな非現実的世界がシャレブレだった。
その世界に自分が転移した。
信じられない気持ちと共に、ある感情も湧き上がってくる。
あの人がいるかもしれない。
「異世界からきた君にいろいろな事を教えよう。心配もあるかもしれないが、大切に扱うと約束しよう。あぁ、こちらに来たばかりだから飛べないだろう?だから、俺の手に乗って」
「え……飛べるって」
「君の背中にある羽。君は妖精だよ、小さなお客様」
「羽………え、嘘………」
朱栞は恐る恐る後ろを振り向く。
すると巨人の男が言ったように、先程の妖精と似た羽が背中から出ていたのだ。ただ先程のトンボのような羽とは違い、鳥の翼のような羽だった。白鳥と同じ白色の羽は、キラキラと光っている。本当に自分に羽がついているのか、と朱栞は背中を動かしながら確認したが、それはふわふわと揺れながら朱栞の後ろをついていく。重さは感じないが、やはり自分の背中に羽がついてしまっているようだ。
どうやら、朱栞はシャレブレに転移し、妖精になってしまったようだ。
「私、妖精になったの………?」
「妖精に転移することは、今までなかった。君は特別なんだ」
「………」
「……と言っても、不安が多いだろう。だからその不安や疑問を俺が無くしてあげる。さあ、お手をどうぞ」
周りに他の人は見当たらないし、近くには巨人の彼の他に言葉がわからない妖精しかいない。
どうやら、目の前の彼に頼るしか方法はないようだ。
朱栞は、ゆっくりと男の手に近づき、片足を乗せた。
裸足だった朱栞の足裏から、男の温かい体温を感じられ、朱栞は現実なのだと思い知らされたのだった。