囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
隠れ家の中は、荒れていた。
家具などはほとんどなく、古く傷ついて中の綿が見えているソファには、汚れた布団が乱雑におかれ、床には酒の瓶が散らかっていた。そして、置くには小ぶりな檻が重ねておかれている。そこには何も入っていない。ラファエルはそれ冷たい視線で見つめ、小さく舌打ちをした。
「いないか、逃げられたのか」
「いえ、まだ奥に部屋があります」
「向かうぞ」
言葉が終わる前にラファエルは音もなく掛けだした。
そして勢いよくドアを開ける。古びた扉のせいか、ギギギッっと大きな音が鳴り響いた。
その部屋は真っ暗だった。
先程の部屋は所々にランプが置かれていたが、ここはそれらもない。
リトが魔法で手の上に炎を作り上げる。ぼんやりとした、灯りがともり当たりを照らす。そこは思った以上に狭い部屋で古くなったベットが置かれており、そこに1人の男性が布にくるまって寝ていた。見た限りラファエルよりも年下だろうが、寝顔が幼く見えるだけで、もしかしたら同じぐらいかもしれない。
「なんだよ。取引失敗でもしたのかよ。戻ってくるの早い」
「寝ている所悪いな」
「なっ」
その男はラファエルの声を聞いた瞬間に飛び起きベットに立てかけていたサーベルに手を取ろうとした。が、それを許すほどラファエルやリトは愚かではない。リトは、すぐにその男に鼻先に剣先を向けた。少しでも動けば肌に傷がつくだろう。
「お、おまえらは誰だよ。最近取引を邪魔してるやつらか」
「君はシャレブレ国の民だろう。まさか、俺を知らないとでもいうのか?」
「は、何言って、お、おまえは……」
「異世界から来たのは昔の事だ、このシャレブレ国の王子の顔ぐらい覚えておいた方がいいぞ」
「…………」
ラファエルは、ゆっくりと男に近づく。
この状況ならば、普通は怯えたり助けを求めたり、言い訳をするものだ。
だが、この男は違った。冷静に、突破策の頭の中で練っているのだろう。そして、この状況に怒りを覚え王子であるラファエルを睨みつけていた。
やはりこの男はやっかいだ。
「榊穂純だな。やっと見つけた。君を探していたんだ」
ラファエルは口元では笑みを見せていたが、とても冷たく低い声言葉が名前を告げた。