囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。




 朱栞は恐怖から足がすくんだが、今を逃してしまえば朝になる。リトやアレイ達は忙しいので、会えるかもわからないのだ。意を決して、竦む足を何とか動かして、薄暗い廊下を進んだ。


 『ハーフフェアリよ』


 小さく、でもはっきりと声が聞こえたのだ。
 低い男性の声だ。だが、その声はラファエルでもリトでもない。聞いたことのない男性の声だった。そして、朱栞を呼んでいるのだ。
 堂々とした威厳のある声に、朱栞は体を震わせた。けれど、何故か自然と足は声の方へと向いてしまう。これも何かの魔法なのだろうか。そう思いつつ、間隔をあけて何度も『ハーフフェアリ』と声をする方へ足を進めていく。
 
 悪い者に呼ばれているのか。それとも、そうでないのか。
 後者であることを願いながら、朱栞は真っ暗な廊下を歩き、そして階段をどんどん下っていく。
 そして、到着したのは朱栞が開けたことがないドアの前だった。けれど、その扉の存在は知っていた。メイナと話をしていた、あの地下室へと続く扉だった。普段は、守衛がいるようだが、ここにも誰も立っていない。こうも偶然が続くわけもないので、これも仕組まれているのだろう。
 朱栞がドアの取っ手に手を掛けると、鍵がかかっている事も魔法で侵入を拒まれる事もなく、自分の部屋のようにすんなりと入れてしまう。ドアの先には、石段の階段があり、壁には魔法のランプが灯っていた。それは朱栞を招いているように思わせた。


 「私が入っていい場所なのかしら。警備隊の人がいたりしたら、また怒られそう」
 『かわまぬ。入れ』
 「!?」


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