囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。




 独り言に返事が返ってくるとは思わず、朱栞は飛び跳ねんばかりに驚いてしまう。誰にも見られていないはずなのに、声の主は朱栞の行動がしっかりと見えているようだった。かなりの魔法の使い手だとわかる。そう思うとこれ以上進むのが怖くなってしまうが、ここまで来て引き返す事も出来ない。しかも、相手には自分の行動が筒抜けなのだ。朱栞は覚悟を決めて、階段を下り始めた。ぺたぺたと裸足で歩く。地下室は冷たく、足裏はすっかり冷え切ってしまう。けれど、緊張からか体の中心は熱い。不思議な感覚だった。


 長い階段を下りると、広い空間があった。
 そこには長いテーブルと数脚の椅子が置いてあった。そして、テーブルの上にはたくさんの地図や何かが書かれた紙が乱雑に置かれていた。作戦室のようだ。
 だが、テーブルの上のものよりも、朱栞が真っ先に目に入ったものがあった。
 それは一番奥の壁にかけてあった、鏡だった。銀色のフレームは、豪華な彫刻があり、複雑で繊細な草模様が描かれていた。そして、顔の高さにある鏡の表面がゆらりと揺れているのだ。朱栞が目の前に立っても、顔が歪む。


 「鏡、だよね。魔法で歪んでいる」




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