囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
30話「王子、耽溺する」
30話「王子、耽溺する」
★★★
この日のために、自分は頑張ってきたのではないか。
まだ終わってもいないのに、ラファエルは幸せを噛みしめていた。
契約でしばりつけた、偽りの婚約という関係。
彼女の気持ちは別の男に向いていると思っていた。いや、実際穂純という男が好きだったのをラファエルは知っている。
けれど、彼女と一緒に過ごしていくうちに、シュリが自分に気を許してくれているなと感じる事も多くなった。頼ってくれて、甘えてくれる。そして、異性の自分と一緒に寝てくれるのだ。嫌いであったら絶対に許してはくれないだろう。
だから、少しは期待していたし、仮でも婚約を結んだ関係だったので安心はしていた。
だが、こうやってシュリの方からキスをしてくれた。
それが叫びたくなるほどに嬉しかった。
「キス………それって………」
「……ラファエルの事を何よりも考えているなって、自分で気づいたのは最近なんです。……あなたとの生活を考えたから、本を作る事を決めたの……。だから、大切な人が犯罪者になったから乗り換えるわけではないのはわかっていて欲しい、です」
そんな事はわかっている。
君がそんな人間ではないことも、もしそうだとしてもシュリが愛しいと思ってしまっている事を。それに、自分に気持ちが向いてくれるならばそれでいい。
惚れた方の負けと、シュリが居た世界でそんな言葉があったが、本当にその通りだなと思う。
「夜になったら、俺からするね」
「ラ、ラファエル……」
「俺はずっと我慢していたから。けど、キスをするなら君の唇がいい。今だと、出来ないから、だから夜まで我慢する」
そう言って、ラファエルは自分の小指で彼女の唇に触れる。
この小人のような小さなシュリも可愛いけれど、やはり抱きしめて、キスを交わしたいと思うと、夜の姿を求めてしまう。昼は可愛さに癒されて、夜は綺麗な彼女を求める。なかなかそれもいいな、と笑ってしまうのだ。