囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
懐かしい響きだった。
このシャレブレの世界でも、朱栞の名前をそのものの音は同じだ。けれど、元の世界の人とシャレブレの人とでは、「シュリ」の発音が微妙に違っていた。ほぼ違わないが雰囲気が違うのだろう。精人語と元の世界のどんな言語とでは、同じものはなかった。そのせいか、同じ「あ」であっても微妙に発音が違った。それは、きっと舌や唇の微かな動きの違いによるものだろうが、文化の違いを大きく感じる。
今、「朱栞」と呼んだ人間は、間違えなく元の世界の人間だった。ラファエル元の世界の言葉を知っているからか、元の世界の人々と同じだった。が、声が彼ではなかった。
忘れもしない、声。
大好きだった、声だ。
「穂純さん、どうして……」
久しぶりにあった穂純は、最後に元の世界で会った時とは全く違っていた。
仕事でしか会わなくなっていたので、いつもスーツ姿で、髪型はまとめられ、清潔感があった。だが、今はどうだろうか。少しボサボサの髪に、全体的にラフな格好だった。スマホやPCの代わりに持ち歩いているのは、腰に見えるナイフに代わっていた。もともと細見だった彼だが、今は少しやつれたようにも見えた。
それでも面影は変わらない。そして、綺麗な笑みも。
けれど、彼には聞きたい事がたくさんあった。
どうして、異世界に来ることを選んだのか。
どうして、朱栞と呼べたのか。
どうして、こんな所にいるのか。