囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。

 それなのに、体と声が震えて上手く言葉が紡げない。
 朱栞はただただ、涙が出そうになるのを堪えながら、穂純を見つめていた。


 「やっと会えた。朱栞がこの世界にやってきたって婚約式で見たんだ。その妖精の姿になっても変わらないね」
 「穂純さん、私……」
 「異世界に来たばかりになのに、大変だっただろう。俺もこの世界に来たばかりの時は、結構困った。けれど、今では悠々自適に暮らしてる。ゲームのRPGみたいだよな」
 「本当に穂純さん、何ですよね?」


 久しぶりの再会だというのに、そんな間抜けな事しか言えなかった。
 けれど、穂純は昔の儘の笑顔で綺麗に微笑む。彼の笑みはモデルのように整っているのだ。
 その表情がとても懐かしくて、朱栞は胸の奥がきゅっと締め付けられた。

 この感覚は、きっと久しぶりの再会で感情が高ぶっているからだ。
 私の好きな人は、ラファエルなのだから。
 そんな風に自分に言い聞かせて、朱栞は穂純を見つめた。


 「久しぶりの朱栞と話しがしたいな。もしよかったら、少し時間をくれないかな」
 「はい。もちろんです。私は穂純さんに、聞きたい事がたくさんあります」
 「だろうね。じゃあ、決まりだ」


 穂純は、そういうと朱栞に手を差し伸べた。
 朱栞はその指先にそっと触れる。元の世界では、手なんて繋いだことなどなかった。
 両手で彼の人差し指の先を掴むと、穂純は目を細めて微笑んだ。


 朱栞は、この手を取ったのは間違えだったのではないか、とその頃になって気づいたけれど、もうその手を離すことなど出来るはずもなかった。
 



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