囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
33話「妖精、罠にかかる」
33話「妖精、罠にかかる」
「え、じゃあ、記憶は残っているの?」
朱栞は驚きながらも、納得してしまう。
穂純はこのシャレブレの世界に転移しても、朱栞と同じように記憶は残っていたのだという。
朱栞の顔や名前を覚えていたのも、そのせいだろう。もちろん、日本語も覚えていた。この世界では誰も話さない言葉を使いながら、2人は元の世界を懐かしんだ。
「記憶が残っていたら協力して欲しいって言われたけど…けれど、異世界がどんな所かもわからないのに協力出来ないだろう?だから、記憶がないフリをして様子を見ることにしたんだ」
「そうですか……」
穂純の朱栞は、出会った場所である廃墟に居た。
ここであれば、滅多に人は来ない。ゆっくり話すには最適な場所だろうと、決めたのだ。朱栞は古びたソファの上にちょこんと座り、その正面に置いた椅子に穂純は腰を下ろした。向かい合って話すと、学生の頃を思い出してしまう。
が、少しずつ違和感を感じたのも事実だった。
何かが違う。
元の世界での穂純との違いを、朱栞は感じつつも感じのそれが何かはわからなかった。
「穂純さんはどうして、異世界に来ようと思ったんですか。日本では、成功していたのに」
「面白そうだから、だよ」
「面白そう……?」
「あぁ。海外旅行でもワクワクするのに、異世界となっては今までの当たり前がそうじゃなくなるだろう。それがどんな当たり前の世界になっているのか。気になってね。ゲームのような世界を想像していたけど、それ以上に面白いね。言葉も覚えて、交流関係もまた初めから。そして魔法や妖精など、存在しないものもある。大変な分、面白さも倍以上だ。知能はそのままで生まれたばかり子どものように知らない事ばかりなんだから、楽しいよ。そう思わない?」
「…穂純さんが、この世界を楽しんでいるようでよかったです」