囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「さぁ、召し上がれ」
「……いただきます」
お腹が空いていないと思っていたが、匂いを感じると空腹感が増してくるから不思議だ。けれど、小さい体には少しだけ大きいカップだったのか、上手く取手を持てなかった。カップの重さで上がらないようだった。
「少し大きかったかな。ごめんね。俺が持ってあげるよ」
そう言うと、小さなカップの取手を易々と摘まむように持つと、朱栞の方へ傾けてくれる。朱栞もカップに手を掛けると、恐る恐るお茶を口に入れた。ラファエルが支えてくれているので、スムーズに飲むことが出来た。花の香りと、自然な甘味がある紅茶のような味わいで、朱栞はゴクゴクと飲み続けてしまい、あっという間になくなってしまった。
「気に入ってくれたかな?」
「は、はい。おいしかったです」
「それはよかった。パンも千切ってあげようか?」
「大丈夫です!かじりついてみます」
そういうと、朱栞は少し大きめのパンを力一杯千切り取り、そして大きく口を開けてかぶりついた。甘い中にスパイスのきいたソースがかかっている肉とレタスに似た野菜、そして芳ばしいパンが口の中に広がってくる。美味しい。そう感じた瞬間から朱栞の口は止まらなかった。考えてみれば、昨晩のパーティーでも軽くしか食べていなかったし、朝食と昼食は異世界に来ていたので何も食べていなかった。お腹も空いているはずだ。
ラファエルが見ているのも構わずに、大きく口を開けてムシャムシャと食べ続けた。
それをラファエルは子どもを見るように微笑ましそうに見つめていた。
半分ぐらい食べると満腹になったので朱栞。
すると、ラファエルは朱栞にナプキンを持った手を向けてきた。
「おいしかったみたいでよかった。さぁ、口を拭こう」
「自分で……ん………」
朱栞が拒みきる前に彼は白いナプキンで口の周りを優しく拭いてくれる。どうやら肉についていたソースがついてしまっていたようだ。お子どもような扱いの恥ずかしさと申し訳なさを感じつつ、朱栞は「……ありがとうございます」とお礼を述べた。