囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「君が戻ってくるまでに、俺は立派な王子になる。そして、妖精の密売組織をこの領地からなくすよ。それが、国王との条件なんだ」
「そんな……」
「カーネリアは異世界でいろいろな物語を覚えてきてくれないか。異世界ではたくさんの国があって、たくさんの物語があるんだよ。君が知っているのはほんの一部だ。俺は君の声で物語を聞くのが楽しみなんだって知ってるだろう。だから、異世界でたくさん学んできて。きっとシャレブレでも役に立つ。カーネリアは、立派な姫になるんだろ?」
「……ずるいわ。そんな風に言うなんて…」
「男はずるい者なんだ。覚えておいて」
「……本当はラファエルはそんなにずるくないもの。いつも優しい。だから、今日だけはそのお願いをきいてあげることにする………」
「カーネリア……」
カーネリアの瞳には涙が溜まっていた。
けれど、必死に堪えて、流れないように微笑んでいる。精一杯の強がりだ。本当に彼女らしい。
ラファエルの大好きなカーネリアがそこには居た。
笑顔で強くて、自分を大切に思ってくれる。美しいカーネリア。
「君に、この羽をあげるよ」
「これって、この間一緒に飛んだ鳥の羽?」
ラファエルの手には、真っ赤な鳥の羽があった。
それは少し前に山にいた色鮮やかな赤い鳥と共に空の散歩をしていた時に鳥からもらったものだった。カーネリアは鳥のような羽をもった妖精だ。そのせいか、鳥によく懐かれる。そのため、一緒に飛んでいたラファエルにもよく鳥が近づいてくるようになったのだ。その時は、赤い鳥がラファエルを気に入ったようで、自分の赤い羽根をくちばしで取り、ラファエルにくれたのだ。カーネリアは「その子、女の子よ。ラファエルはモテるのね」と鳥相手に嫉妬してくれた彼女がとてもかわいかったのを覚えている。
その時の羽をラファエルはカーネリアに渡した。
「君と大好きな空を散歩した時の大切な思い出の品なんだ。だから、帰って来たらきっと返してくれ」
「うん。絶対に返す。ラファエル、無理はしないでね」
「あぁ、カーネリアも……」
最後にラファエルとカーネリアは抱き合い、どちらともなく短いキスをした。
その日、2人ははじめてのキスをした。それがしばしの別れの合図になってしまう。
ラファエルは、どうしてもカーネリアに記憶の事を伝えられなかった。
自分の事を忘れると知ったら、きっと悲しむだろう。
嘘は伝えなかった。けれど、彼女に伝えられなかった事を少しだけ後悔した。
帰ってきたら、記憶を戻して謝ろう。
たくさん怒られて、泣かれるだろうが、それもしっかり受け止めて、会えなかった時間を沢山愛でよう。
何年会わないことになるのかわからない。
10年以上はかかるだろうと、ラファエルは思っていた。
カーネリアはラファエルの両親の魔法を使い、異世界へと転移した。
そして、記憶を無くして、新しい異世界で、昔から過ごしていたかのように生活をし始めたのだ。ラファエルの事など全く思い出さずに。