囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。




 ラファエルは少し拗ねた表情でカーネリアの顔を見つめる。
 彼は妖精の密売組織を壊滅させた後、肩の荷が下りたのか妙にカーネリアにくっつき甘えてくる。いつも冷静でいて、威厳のある姿で警備部隊をまとめている姿を見ていたので、少し驚いたけれど、自分だけにその姿を見せてくれると思うとくすぐったい気持ちになる。
 それに、彼には申し訳ないが少し可愛いとさえ思えるのだ。

 朱栞として生きてきた前の世界で片思いをしていた相手である、穂純。
 彼は妖精密売組織でもトップに分類される存在だった。元の世界でもとても頭がよく、会社の社長として人々をまとめ上げてきたのだ。シャレブレ国に転移してきても、その手腕を発揮したのだろう。他の分野であれば功績を残したはずなのに、穂純は妖精の密売という悪にてを染めてしまった。
 そのため彼に命じられた処罰はシャレブレ国からの追放。及び、記憶の抹消だった。
 穂純は元の世界に戻される事に決まったのだ。
 異世界に行った後に、時々戻ってくる人もいたが、それはシャレブレで犯罪を犯し追放された人間だったのだ。穂純もその1人になってしまい、そしてシャレブレ国と元の世界の記憶をなくして帰還する事になる。きっと、想像以上に過酷な生活が待っているのだろう。

 それを聞いたカーネリアは、悲しみのあまりに数日間ふさぎ込んでしまった。
 罪を犯してしまったのならば、罰をうけなければいけないのはわかっている。
 どんなに彼に酷い事をされたとしても、穂純を憧れて好きなった過去は変わらないのだ。もちろん、嘘であっても彼に優しくされた記憶も。
 そんな傷を癒してくれたのもラファエルであった。
 昔のように空の散歩につきあってくれ、少しずつ昔の記憶を戻してくれていた。

 カーネリアの記憶は、ラファエルが大切に持っていてくれたのだ。
 瓶の中に入った小さな宝石たち。それが、カーネリアの記憶の結晶だった。一気に記憶を取り戻してしまうと、体、特に脳に負担がかかってしまうらしい。そのため少しずつ取り込んでいくのだ。始めはその宝石を食べると聞いて驚いたが、記憶を取り込むと、心が太陽に当たるような気持ちの良い感覚になるのだ。そして、その宝石に閉じ込められた過去が頭の中で再生される。
 ラファエルとの温かな生活、そして辛い過去。どの映像でもカーネリアは泣いてしまうのだ。
 それが嬉しさであり、悲しさ、そして安堵からくるものであっても。
 そんなカーネリアをラファエルは、いつも抱きしめて、「おかえり」と言ってくれる。
 ラファエルが傍にいてくれて、彼を好きになってよかったと改めて思える瞬間だった。


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