囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「ごめんね。君に人間に変化するのをわかってほしかったんだ」
「………言って貰えればわかります」
「うーん。これは嫌われてしまったかな。大変だ。では、これを渡そう」
「あ……これは」
ラファエルはそう言って、ワゴンの下に置いてあったカゴの中からあるものを取り出して朱栞に手渡した。
「それは、私の本」
彼が手にしていたのは、元の世界で朱栞が読んでいた本だった。伯爵夫妻から教えてもらったスペインの伝書を元に書かれた本「人間と妖精の物語」。真新しい、シンプルな表紙の本。そして、本の間からは朱栞が愛用していた栞も挟んだままだった。朱栞は、赤い鳥の羽を昔から栞として大切に愛用していたのだ。
「草原で君に会う前に拾っていてね。ここでは使わらない言葉の本だから、きっとシュリのものだろうと思ったんだ」
「どうして、元の世界のものが」
「この世界に転移する時、元の世界で身に着けていた服や持っていた物も一緒に転移されるんだ。だから、君は転移した時も元の世界の洋服だったし、持っていただろう本もここに着いたんだろうな」
「そう、なんですね………」
手元に残った元の世界で唯一のもの。
来ていた服は、さきほど妖精から大きさが変わった時にボロボロになってしまっていた。そのため、元の世界との繋がりはこの本だけになってしまった。