囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
1話「妖精、転移する」
1話「妖精、転移する」
クリスマスイブは、大雪だった。
普段、あまり雪が降らない地域なだけに、「ホワイトクリスマスだ」と街を歩く人々は浮足立っていた。その人混みを、朱栞は縫って小走りで通り過ぎる。その度に口からは白い息が上がる。
今年のクリスマスイブは金曜日で、街中はカップルや友人同士などでイベントを楽しんでいる人たちでごった返している。そんな中で朱栞は仕事終わりに1人きりだったが、寂しいという気持ちを感じる事はなかった。
心の中はワクワクとした温かい気持ちが溢れており、寒ささえも感じない。気分が高揚させるのが1番の寒さ対策なのではないかと思うほどだった。
スーツの上にダークブラウンのロングコート。そして、キャメルと水色のチャックの大判マフラーを首に巻いている。明るすぎない栗色の長い髪は高い位置でまとめ、毛先は軽いカールがかかっている。その髪をぴょんぴょんと跳ねさせながら歩く。
大切に抱えている紙袋は分厚い。その重みには、楽しみが詰まっているのだ。そう思えば、それを抱えて帰る雪道も苦痛に感じない。
「今日は伯爵夫妻にも久しぶりにお会いできたし、おすすめのものも教えていただいたし。いいクリスマスプレゼントだわ」
雑踏の中、小さく独り言を漏らす。
思い出してはニヤけてしまう口元をマフラーで隠しながら、雪の跡がついてしまった紙袋を見つめる。赤くなった指先で、紙袋についた雪を払い、家路を急いだ。