囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「………今日は疲れただろう。話は明日にしよう」
「え……」
「心配しなくても大丈夫だ。明日もここに来る。後でお風呂の準備もするから入って今日は休んでくれ」
「待ってください……!!」
部屋から出ていこうとする彼の手を、朱栞は咄嗟に掴んでしまう。彼の腕はとても逞しく、ガッシリとしていた。王子様なのに、彼は鍛えているのだろうか。そんな些細なことを考えつつも、朱栞は必死にラファエルの驚いた瞳を見つめた。
「1つだけ、今、教えてくれませんか?………どうしても気になるのです」
「………わかった。聞こうか」
「ありがとうございます」
朱栞は彼の手を離し、深くお礼を述べた。
ラファエルは朱栞と向き合い、「質問は何かな?」と聞いてくる。
朱栞の聞きたいことは山ほどあった。
けれど、1番聞きたいこと。
「………私より先に転生した男性は、まだこの世界にいますか?」
彼はこのシャレブレ国にいるのだろうか。
朱栞のように転移された人を保護するのならば、彼もどこかで守られて生きているのだろうか。そう思ったのだ。
異世界に来て、もし誰にも見つけられないで生きていくとになったら。あの草原でラファエルに助けられずに1人でさ迷っていたと考えると、怖くてしかたがない。
彼がそうなってはいたいだろうか、と心配になったのだ。もう何年も前の事なのだから、心配しても仕方がないのだが。
「……シュリの知り合いがこの国に来たのか?」
「おそらく、ですが」
「……自分の事ではなく、他の人の事が知りたいだなんて……」
「ご、ごめんなさい」
「……いや、いいんだ。シャレブレ国に転移してきた人達で過去10年で元の世界に戻した人間、死亡した人間はいないよ。安心していい」
「あ、ありがとうございます!」
心の中の大きな不安が1つ消えた。
それを感じられて、軽くなるのがわかった。朱栞は思わず笑顔を隠しきれなくなる。
彼は、#穂純__ほじゅん__#は無事なのだ。そして、この世界に居れば彼に会える。
それは、朱栞にとって、大きな希望なった。