囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「彼女は私の大切な人だ。おまえがそのような気持ちで彼女と接するならば、他の者に変える」
「………申し訳ございません。余計な事を申しました。引き続き、この仕事を全うさせていただきます」
いつもより強い口調で命令すると、彼女は顔色を変えた。真っ青とも言える怯えた表情で視線を下に向けた。
けれど、それでも彼女の気持ちがすぐに変わるわけもない。念には念を入れておかなければいけない。
「……次にそのような気持ちだという事があれば、この城から出て行ってもらう。心して面倒を見てくれ」
「かしこまりました、ラファエル様」
彼女は深く頭を下げたまま、ラファエルが去るまで顔を上げなかった。
これで少しの間は、文句を言わずに仕事をしてくれるはずだ。が、問題は山積みだなと、大きくため息をついた。
「記憶が残っていなかった方がよかったのか……そう思ってしまう俺は、優しくない男だな」
ラファエルのその消えそうなほど小さな言葉は、周りを飛ぶ金色の妖精にだけ届いていた。けれど、彼女にはその言葉は理解できなかったのだった。