囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
次の日の朝。
起きると妖精の姿に戻っており、大きなベットに埋もれそうになってしまった。用意してもらった夜着は薄手のドレスのように長めの丈で、生地もデザインも可愛らしかった。その洋服は破れる事なく、朱栞と共に小さくなったのだ。
「これも魔法なのかな……」
そう一人呟きながら、朱栞はバタバタと体を動かしてようやくベットから起き上がった。やはり、この妖精の体は何とも使いにくい。
雨の日の公園のように歩きにくいベットの上を長いこと歩き、ようやく端まで来たが、やはりベットから床は相当な高さだ。ここからジャンプして失敗したら怪我をするだろう。そう思いつつも、自分の後ろをちらりと見つめる。そこには、綺麗な白い羽がついている。妖精ならば、この羽を使って飛べるはずだ。
朱栞は自分の意思のまま動かせるのだろうか、と疑問に思い、挑戦する事にした。背中に意識を集中させると、今まで感じたことのないざわつきがあるのに気づいた。そこに何でもいいので動けるようにと力を込めた。すると、ゆっくりと羽がゆらゆらと揺れたのだ。
「う、動いた!」
初めて立った時の感覚はこんな感じだったのだろうか。
これからどんな世界が待っているのか、そして、これを自分でうまく扱えるのか。
期待と不安が混じり合った奇妙な感覚だ。けれど、それは不快ではない。新しい事を知ることは人間誰しも好きなのだから。
「驚いた……。自分で扱えるようになったなんて」
「ら、ラファエル王子っ!」
「ごめん。ノックをしても返事がなかったから心配になってしまって」