囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「人間はたくさんの動物や自然、そして同種である人と戦争をして栄えてきた生き物だ。きっと、妖精との戦争もその延長にしかなかったのだろう。戦争がない世界に生きている俺達ではありえないことであっても、その当時は当たり前の事だったのだろうね」
残念だね、愁いを帯びた伏し目がちの視線で、テーブルの上の古い本を撫でたラファエルの声は、とても小さいものだった。
過去の人々の気持ちはわからない。けれど、どうにもやるせない。きっと朱栞も彼と同じ顔をしているのだろうな、と思った。
「そんな過去があり、君の世界とこの世界では似ている部分があるんだ。この国では、妖精を受け入れた事で、言葉を彼女たちが使っている言葉を全人類統一で使用する事にしたんだ。「精人語」と名前を付けて、人間と妖精同士の和平を誓った」
「妖精の言葉……」
「そう。シュリにもその言葉を教えていくよ。簡単だから、きっとすぐに覚えられるだろう。そして、先程似ているものと話したけれど、妖精が使っていなかった物や言葉は、人々が使っていた言葉を使った。だから、君が知っている名称もそのままなんだ。それが、君の世界と僕たちの世界が同じだという1つの証拠だ」
「も、もしかしてラファエルが話せているスペイン語も……?」
「あぁ、これは確かにこの世界で昔使われていたという記録もあるけど、そこから覚えたわけじゃないんだよ。これは、俺の両親の影響でね」
「え、ご両親は私の世界の人なんですか?」
「違うよ。俺と同じシャレブレ国の人間だけど。それに、君も知っている人だよ」
シャレブレ国の人間で朱栞が知っている人。
そんな人は朱栞にはいないはずだ。しばらく考えても答えが出ない、朱栞を見てラファエルは笑顔で得意げに答えを教えてくれた。
「セリネーノ伯爵と夫人のクリスマスパーティーに誘われたんだよね?」
「はい、ええぇーー」
「その2人は僕の両親なんだ」
朱栞は時が止まったかのように静止して、しばらくした後、大きな声を出してしまうほど、驚きを隠せなかった。