囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
10話「妖精、物語を紡ぐ」
10話「妖精、物語を紡ぐ」
それからの日々は、朱栞にとって学生のように学びの毎日だった。
朝早くに起きて、城の庭で飛行の練習をして、昼前に魔法の練習、そして午後からは精人語の勉強。それを繰り返していた。城の外には出ることがなかったが、朱栞には新鮮な時間だった。ラファエルはやるべくは時間を見つけて教えてくれていたけれど、やはり王子となると忙しそうで、メイナが教えてくれていた。
「シュリ様は覚えが早いので、私は必要なくなりそうですね」
「そんな…メイナの教え方がわかりやすいのよ。ありがとう、メイナ」
「お褒めに預かり光栄です」
「言葉は大丈夫そうなんだけど、やっぱり魔法が難しいわ」
「シュリ様は魔力が強いので、加減が難しいのですね」
この日は午前中はメイナが教えてくれていたが、彼女は妖精ではないので魔法と言葉の学びを手伝ってくれていた。そして、今は魔法の練習だった。
彼女ももちろん基本的な魔法が使える。
指示したものが自分の所に飛んできたり、指から火や水を出したり…などなど覚えたら便利だろうな、と朱栞も感じていた。
が、ことごとく失敗するのだ。きっと成功は0に等しいだろう。魔法が発生しないわけではない。メイナが話したように、朱栞の魔力が強く、全て破壊するほどなのだ。物を飛ばせば、勢いよく飛んできて、朱栞にぶつかりそうになったり、酷い場合は壁に穴が開くほどだった。火や水も大きすぎて、外で行うしかなかった。部屋でやってしまっては水浸しになるか、家事になるか。城を破壊しかねないからだ。
「……これで本当に魔法を使いこなせるのかしら?」
「異世界から来られた方は半年が経ってもなかなか魔法を使えない方が多いのです。シュリ様は習得がお早いかと思います」
「そうなの?」
「えぇ、ご安心なさってください」
メイナがそう言って微笑んでくれると、朱栞は安心出来る。ラファエルとメイナだけが朱栞と話してくれる。
やはり、朱栞は城でも避けられているのを感じていた。城の中で朱栞とすれ違うと頭を下げてはくれるが、視線は合わせてくれない。そして、朱栞と距離が離れた後にひそひそと何か噂話をしている姿をもう何度も見ていた。
自分の何がダメなのか。
気になるけれど、自分で確かめるのは勇気がいる。朱栞は見て見ぬふりをするしかなかった。