囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
朱栞の突然の提案に、メイナは不思議そうにしていたが、仕えている人の言葉を拒むことはなかった。理由はどうであれ、自分の好きな元の世界の物語を話せる。それが、朱栞にとってはとても心弾むことだった。
「この世界には人魚はいるかしら?」
「ニンギョ、ですか?」
メイナの不思議そうな表情に、シャレブレでは人魚という架空の生き物は存在しないとわかった。
「上半身は人間で、下半身は魚のなの。尾びれがついていて、それを使って海の中で生活している。そんな架空の生き物よ」
「半分が魚。………魔獣みたいですね」
「この世界には魔獣がいるのね」
「はい。森や海に居るとされています。人間を襲うので、見つけ次第退治されるものですが、魔力を好むので人間を襲い続けます。……そのお話ですか?」
きっと朱栞が恐ろしい話でもするのではないかと思ったのだろう。メイナは不信感をもって朱栞を見ていた。朱栞は、笑顔で「違うわ」とそれを否定した。
「人魚姫といって、とても綺麗な人魚のお話なの。とても夢があって、素敵で切ない恋の物語なの」
メイナが淹れてくれたお茶を、ようやく慣れてきた手つきで一口飲み、朱栞は「人魚姫」の話を始めたのだった。