囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
その日の夜。朱栞は自室に戻ると、メイナから大量の紙とインクを貰い、テーブルの上でずっと文字を書いていた。
慣れない精人語を使いながらも夢中でペンを走らせていた。
思い出すのは昼間のメイナの夢中になって物語を聞き入る姿だった。目をキラキラさせ、子どものように純粋でまっすぐな視線を向けてくる彼女。物語が進むにつれて、表情がコロコロと変わって、最後にはポロポロと涙をこぼしていたのだ。そして、メイナは「とっても感動しました。けれど、人魚姫の気持ちを思うと悲しくて。でも、嫌いになれないステキな物語でした」と言ってくれたのだ。朱栞が「また、今度他の話を教えるわ」と言うと、メイナは今までで見た事もないような満面の笑みを浮かべてくれのだ。
物語が、彼女との距離を縮めてくれた。
朱栞はそれがとても嬉しかった。異世界であっても、物語で人の気持ちは動くのだ。そう感じることが出来た。大好きな物語を認めて貰えた。笑顔になったのは朱栞の方だった。