囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
彼のこうやってすぐに褒めてくれる。
元の世界では頑張るのが当たり前だった。勉強も仕事も頑張り、身なりを整え自分磨きをする。それでようやく普通になれる。けれど、ラファエルがそれを努力だと認めてくれる。そして、そこに惹かれたと言ってくれる。
頑張りを認められるのは、嫌な気持ちになるはずがなかった。それにそのまっすぐな視線と言葉には嘘はないと思えたのだ。
それなのに、素直に喜べない。それは、穂純の事があるからなのか。それともラファエルを疑っているからなのか。両方なのか、全く違う理由なのか。
自分の感情であるのに、朱栞はわからなかった。
「俺は正装で出なければいけないけれど、君は思い切り綺麗なドレスを着ようね。俺の愛しい人はこんなにも綺麗なんだって見せつけなきゃいけない」
「では、ラファエルさんが選んでくださいね」
「もちろんだよ。でも、もう1つの契約を交わしてもいいかな」
「妖精の契約、ですか?」
「あぁ。こちらは2人だけでやるものだ。すぐに終わる。いい、かな」
こちらの契約も彼と約束していたものだ。
彼は契約完了していないのに、朱栞に魔法や言葉を教えてくれたり、城に住まわせてくれている。今更、断る事も出来ないし、断る理由もなかった。
自分の力を制御してくれる事にもはずであるし、彼は自分の力を使う時は承諾を得てからじゃないじゃいと使わないと言ってくれているのだ。
朱栞は、頷いて返事をした。
「ありがとう。では、始めるよ。君は、僕の手を握っていてくれればいい」
ラファエルは朱栞を出窓に下ろし、手を差し伸べた。恐る恐る彼の中指を両手で触れた。
それを見て、ラファエルは「ありがとう」と言った後に、朱栞の羽に触れた。
「ごめんね。羽を1つだけもらうよ」
そういうと、端にある羽を抜き取った。小さな痛みが走ったが、声が出るほどの痛みではない。
「我は、ラファエル・セリベーノは、シュリ・クガと契約を交わす。チカラを驕らず、万物のために役立てる事を精霊主に誓おう」
目を瞑りそう高らかに告げる。
ラファエルはその後、持っていた朱栞の白い羽を顔に近づけると、口を開けてそれを飲み込んだ。