囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
どうしていいかわからずに部屋のソファに座っていた朱栞の傍に、ラファエルはゆっくりと近づいてきた。
「シュリ、何だかいい香りがするな」
「あの………これはメイナが勝手にしたことで……」
緊張してしまう理由は他にもあった。
朱栞がお風呂に入ると、いつもは入ってこないメイナがどうしても、と言い朱栞の身支度の手伝いをしたのだ。風呂場では、バラの香りがする石鹸を上手に泡立てて体を洗い、髪には「これをつけると更に艶が増して、こちらは香りが素晴らしくて」と説明をしながらせっせと手を動かしていた。上がってからも香油を体に塗ったり、髪の入念に梳かして、「うっすらお化粧もしますよ」と、朱栞が抵抗する事も許されずにされるがままになっていた。
どうして、こんなことをするのか、など聞くことも出来ない。婚約者と初めて共の夜を過ごすということで、メイナが張り切ってくれたのだろう。申し訳ない気持ちになりつつも、準備万端という雰囲気になってしまい、ラファエルを目の前にして朱栞は居たたまれなくなってしまっていた。
「なるほど。そういう事か……」
「す、すみません。メイナにどうやって説明すればいいかわからなくて、止められなくて」
「メイナには褒美をあげたいぐらいだな」
「え……」
「さぁ、シュリ。ベットに行こうか」
「な、待って……」
朱栞に焦りをよそに、ラファエルは朱栞の体を引き寄せると、そのままで抱き上げたのだ。
あまりに軽々と抱きあげられたので、朱栞は驚き、思わず彼の体に腕をまわして抱きついてしまった。そんな朱栞はラファエルは楽しそうに見つめ、そのままベットに体をゆっくりと下ろして、そのまま自分の体を横たわらせた。彼は魔法で部屋のランプの炎が消える。光っているのは、ベットの傍にある小さななランプの穏やかな1つの火だけだった。