囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。





   ☆☆☆



 「ん………」


 ベットの中のぬくもりがなくなったように感じた。
 けれど、眠気が勝り目を開けられない。朱栞はぬくもりを探して体を動かす。けれど、どこにも温かさはない。
 不安になり、目を開けようとした時だった。
 誰かに抱きしめられる感覚が伝わってきた。

 誰かと一緒に寝ている。
 誰と一緒だろうか。自分は彼氏なんていただろうか。穂純さんと付き合えたのだった。
 そこまで考えて、ゆっくりと目を覚ます。


 「ラファエル」


 そうだ。
 自分は異世界へと飛ばされて、この目の前の男性と婚約をしたのだ。
 初めて一緒に寝たというのに、ぬくもりを感じなくなると不安になり探してしまった。
 そして、その相手は違う男性だと、寝ぼけた思考であったとしても考えてしまった。

 自分の愚かさを感じて、朱栞は体をくるりと後ろ向きにして彼に背を向けた。
 
 他に好きな人がいる事も黙って婚約をして、そしてぬくもりに甘えてしまっている。
 ラファエルはどうして、そんな女を好きというのだろうか。

 だからと言って、本当の事を言う勇気さえない。
 この異世界で、1人きりになってしまったらどうしよう。
 ラファエルやメイナの優しさに触れてしまうと、そこから離れるのが怖くなってしまう。
 ぬくもりが冷めてしまうのが、本当の自分を知られてしまうのが怖かった。

 だから、背を向けながらもぬくもりは感じられるように、その場から離れられない。
 本当に悪い女だな、と泣きそうになってしまう。
 体を丸めて、目をキツく閉めて、涙を止めようとした。

< 75 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop