囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
ラファエルは子ども達、朱栞はその母親達に挨拶をしていく。歓迎してくれる人々ばかりで、朱栞はホッとしていく。城のような雰囲気だったらどうしようと、実際に話すまでは不安でもあった。
けれど、町を歩きながらいろんな人と話しながら、「温かい町だな」というのが第一印象だった。田舎街のような雰囲気という、遠目からの印象と、実際では良い意味で違いはなかった。
露天や店が立ち並ぶ場所を少し歩いただけで、ラファエルの手荷物はとても多くなっていた。露天で売っているシエレア名物の食べ物や小物、お花などを「お祝いの品です」と次々に渡されたのだ。最後の方は断るぐらいになってしまい、朱栞の耳元でヒソヒソと「少し逃げようか」と笑った。
そして、朱栞を自分のシャツの中に入れてしまった。朱栞は突然、彼の匂いと肌に包まれ顔が真っ赤になってしまう。けれど、ラファエルは朱栞が抗議の声を上げてもかまう事なく「しっかり掴まっててね」と言うと、魔法を使って高らかに飛び上がってしまった。
下から「ラファエル様お待ちください!」「また遊びにいらしてくださいねー」という人々の声が耳に入ったが、あっという間にきこえなくなってしまった。
そして、それと同時に体がふわりと浮いたのだ。
突然の浮遊感に、朱栞は目を丸くしながらも、必死にラファエルのシャツを内側から必死に掴んだ。その後は、落下からまた浮遊という感覚に襲われ目が回りそうになってしまった頃に「着いたよ」と、ラファエルをシャツの中から救出してくれた。
開口一番に「やめてください!」とでも言おうかと思っていたが、爽やかな風と目の前の光景を見たらそんな事を伝えようとした事をすっかり忘れてしまっていた。
「わぁ………すごい……」
そこは見渡す限りの草原であった。
高い木はほとんどなく、低い草が見渡す限り続いていたのだ。所々に緑以外の色も見えるがそれは花なのだろう。風が今とこに吹いているのか。それが草花を見ているとよくわかった。それに、雲で日陰になっているところもゆっくりと動いており、その部分が生き物が移動しているようにも見えた。
「ここってもしかして……」
「そうだよ。君が転移してきて、ここで出会ったんだ」