囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
「そんなくだらない話をしている暇はないわよ」
「……アレイ。君は盗み聞きをしていたのかい?困ったものだ」
「だから!そんな事言ってる場合じゃないの!それに私はあなた達の盗み聞きをするほど暇じゃないわ」
「で、アレイ。その急ぎの用件というのは?」
「草原で1人の子どもが居るわ。その場所に魔物はいないけど、ずっと先にはいる」
「もしかすると遭遇かもしれないな。場所は」
「案内するわ。それと、あんた」
「は、はい!」
ラファエルと話をしていはずのアレイが突然こちらを向いて指さした。同じ妖精という小さい体だが、迫力を感じ思わず体をビクつかせて返事をする。アレイの表情はラファエルに向けるものよりも厳しいものだった。
「あなたもハーフとはいえ妖精でしょ?なんで、遠くを見ようとしないのよ。少しの魔力でも判別できないの?ボーっとしすぎじゃない!?」
「遠くを見えるって、どこまで」
「あの遠くに見える木の下よ」
「………あれって木なの?」
アレイが指さした方向。そこは、遥か先にあるぼんやりとした影が見えるか見えないかの場所のようだった。けれど、それは人間では到底見えるような距離ではないのだ。
朱栞は、目を凝らしたけれど何も見えない。
「アレイ。朱栞はまだここに来て1か月ほどだよ。急な変化は体に悪いだろう」
「ラファエルは甘やかしすぎよ。そして、あなたは甘えすぎっ」
フンッと顔を背けると、アレイはさっさと先に飛んで行ってしまった。
朱栞は慌ててついていくけれど、彼女の速さには追い付けずにどんどん離されてしまう。
知らない事が多いからと言って、知らないままでいたのは確かなのかもしれない。
やらなければいけない事があって、それに必死になっていたのは事実。
人間に教えてもらう事は確かに教えてもらっていた。けれど、自分はハーフフェアリ。人間だけではなく、妖精からも教えてもらう必要があった。
それをアレイに気付かされたのだ。
悔しいけれど、馬頭されても仕方がない事だろう。
彼女は何に苛立ったのかわからない。
けれど、本来の妖精ならば出来る事、朱栞に出来る事を「出来ない」と思ったままだったからだろう。
朱栞は必至にアレイを追った。