囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
知らない言葉だった。
どこの言葉さえもわからない。ただ、流れが綺麗で穏やかな風のように、スッーっと馴染む音だった。
朱栞はハッとして声がした頭上に視線を向けた。
そしてそこに居た者を見た瞬間、目を見開いて大きな声を上げそうになった。
そこには、見たこともない生物が宙に浮いていたのだ。白い肌に柔らそうな上等な布で出来た軽やかに揺れるワンピース。そこから出る手足はとても細い。太陽の光りを受けて輝く金色の髪はふわふわと揺れている。そして、目を引くのは背中から伸びる半透明の羽だ。トンボのような羽を大きくし、色は虹色を混ぜたような不思議なものだった。そこからは、小さな光りが瞬いては消えているように見える。顔は少しつり目だが長い睫毛やふっくらとした唇は、女性らしさを感じられた。朱栞と同じぐらいの大きさだが、朱栞はすぐにその者が何なのかがわかった。
「妖精………!?」
「………∥┐│┃」
フィクションの物語に出てくる妖精と同じ姿をした者が目の前に居る。今まで生きてきて、本物の妖精を見たことがないのだ。驚かないわけがない。目を大きくするばかりで次の言葉も出ず、その場で固まってしまった。
と、そんな朱栞に更なる追い討ちをかける事が起こった。
「……っっ!?」
タッタッと地面が少しずつ揺れたのだ。地震かと思ったが、それは間違えだとすぐにわかった。音が朱栞の方へ向かってきており、大きくなっているのだ。これは足音だ。
軽い足取りで、スピードも早い。もう少しで朱栞までたどり着いてしまう。
ガサガサと草花を掻き分ける音がして、朱栞は恐怖から全身に力が入り、肩を上げながらそちらを恐る恐る凝視した。
「………あぁ……見つけた。俺の妖精」