囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
ラファエルが呼ぶと、後方にどこかに控えていたリトが姿を表した。こちらはいつもと変わらない無表情だったけれど、焦りは見られる。
やはり、ただ事ではないのだった。朱栞にも緊張が走った。
「行ってくれ」
「かしこまりました」
言い捨てるように命令するラファエルの声はとても低い。温度が通っていない冷たい声音だった。リトは来たとき同じように音もなく闇に消えた。
「ラファエル……大丈夫?」
「大丈夫さ。リトがしっかり調査してくれる。それに他の護衛隊や警備隊もかけつけるだろう」
「何か……あるの?」
ただの魔力を感知しただけならば、そこまで神経を尖らせる必要がないように思われた。場所が場所だけに、心配ではあるが。
ラファエルは何かを危惧しているのではないか。朱栞はそう感じてたのだ。
「そんなに気にすることではないよ。ごめん、シュリを怖がらせるつもりはなかったんだ」
「……私は大丈夫よ」
何か困っている事があるなら話してほしい。あなたは、何を心配しているの?
そう聞きたかった。
けれど、異世界から来たばかりで力があるだけのハーフフェアリ。
そして、いつも大切にしてくれるが自分は契約の婚約者だ。自分からそれを持ちかけたのに、何かあったら頼って欲しいなどおかしな話だろう。
「……私の力が必要な時はしっかり話してね」
けれど、契約妖精なのは事実なのだ。
莫大な魔力を制御するため、他の存在や犯罪に使われないようにするためだとしても、王子である彼が適正に使用するならば。そう思った。
そんな事でしか役に立てない自分を恥じながらそう彼に伝えると、ラファエルは目を細めて「ありがとう。いざという時は頼りにしている」と、微笑んでくれた。
それだけで、どこかホッとしてしまう自分が、朱栞は嫌になりそうだった。