囚われのおやゆび姫は異世界王子と婚約をしました。
朱栞は鳥肌が立つような感覚に襲われたのだ。
それは、自分の喉元に刃物を当てられたような緊張と恐怖感。鳥肌の後は震えさえ感じた。先ほどまで優雅に飛んでいた鳥たちも、今は大きな鳴き声を掛け合って騒がしく飛行し、蛇行しながら飛行している。魔力を感じなくても、この恐怖を野生の勘で察知しているのかもしれない。
目の前の空に鳥がいなくなったと思ったが、ある者たちが目に入って生きた。
それは、どこかから帰ってきたラファエルとリトだった。
朱栞はじっとその姿を見据える。アレイに教えてもらった通り、見たいと思ったもの照準を当てて、瞳に魔力を溜めていく感覚だ。そして、ラファエルを見る。そうすると、対象が目の前に居るかのように鮮明に見えるのだ。それが成功したのか、ラファエルもよく見える。
が、それは本当に彼なのか、と自分の目を信じられなくなるぐらいに表情が違う。いつも陽のように明るい笑顔はなく、冷たい血の通っていない顔。初デートの帰り道の時よりもそれは暗く、咄嗟に視線を逸らしてしまうぐらいだった。怒っている。そんな表情では足りないぐらい憤怒し、そしてそれなのに冷静さを感じるから更に恐ろしく感じる。
ラファエルもこの魔力を感じているから厳しい顔つきになってしまっているのだろうか。
それに自分の見違えなのかもしれない。影で雰囲気が違うように見えたのかもしれない。そう思って再度顔を向ける。
と、先程の魔力を使った視線に気づいたのか、ラファエルがこちらを向いていた。そして、いつも通りの笑みを浮かべて、にこやかに手を振っている。きっと、彼は朱栞を見ることは出来ないだろうが、朱栞だとわかったからの行動だろう。
朱栞は少しホッとして、彼を見つめた。
先程の魔力は何だったのか。彼にも聞いてみようと、朱栞は城の玄関へと駆け出した。