光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「……そうだったんだな。だから、伊達メガネをかけて三つ編みしてるのか」
「そうよ」
学校に行く時、お母様譲りのこのラベンダー色の髪は結構目立つから、極力目立たないようにするために三つ編みに。
伊達メガネは特に理由はない。ただ、メガネをかけていた方が、地味に見えると思ったから。
だけど、家やコンクールに出る時はいつも髪を下ろしている。
「……如月に何があったのか、俺は知らない。でも、辛い過去があったことは分かった。けど……」
彼は、私に目を向ける。
「如月は、本当にそれでいいのか?」
「……いいの。その方が安心して過ごせるから」
「そうじゃない」
「えっ?」
「自分を隠す事で、幸せに過ごせるのか?」
……幸せなんて言葉は、今の私にとって無縁の言葉に近い。
「人を信じられなくなった私が、幸せになんてなれる訳ないじゃない」
コンコンコン
ドアをノックする音が聞こえると、茶菓子と紅茶を持った遥貴さんが中に入ってきた。
「茶菓子と紅茶をお持ちしてまいりました」
そう言って、遥貴さんは丁寧にテーブルに茶菓子と紅茶を置いてくれた。
「……もしかして、今お取り込み中でしたか?」
「大丈夫。ただ、昔の事を少し思い出してただけだから」
「そうですか」
私は視線を落とす。幼い頃の幸せな日々だった記憶は、ほとんど忘れてしまった。
覚えている事もあるけれど、はっきりとは思い出せない。
きっと、とても素敵なものだった事は何となくわかる。だけど……
そんなものをバラバラに壊されたら、誰だって私みたいになるのではないかって思う。
だからもう、何も壊されたくない。
「お嬢様は、もう少し学校生活を楽しんでも良いのではないでしょうか」
「……え?」
遥貴さんがそう言ったことに驚き、私は顔を上げる。