光の差す暗闇で私は音を奏でたい



そんな事だけで、人をそこまで信用出来る人はそうそういないはずなのに……彼はそうだった。





「小林様がいて下さるなら、安心できますね。では、俺はこれで失礼します。二人でごゆっくり」






遥貴さんはそう言い残して、部屋を去っていってしまった。




また少し、私達の間に沈黙が流れる。






遥貴さんがいる時は大丈夫なのに、彼と二人きりだと何か落ち着かない……一体どうすれば……





「如月は、遥貴さんの事が好きなのか?」





「……えっ?」





急に質問されて、驚いてしまう。





私の表情を見て、彼はふっと笑う。





「そんなに驚く事ないだろ。ただ、普通に質問しただけなんだけど」




私は下を向き、少しして視線を上げた。




「遥貴さんの事は、普通に好きだけど……?」




「……そうか」



「うん。遥貴さんは私にとって、大切な執事さんだよ」





そう言ったけれど、私は少し悲しくなって、思わず下を向く。





「何か、あったのか?」





「前までは、今の関係ではなく、普通に友達だったの。けれどある日、遥貴さんがそういう関係を望んだんだ。だから私も、それを受け入れて、そういう関係になった。……ただ、それだけだよ」




「……そうか」




「うん」





自分にとって大切な相手が望むことを私は尊重したい。



それがたとえ、自分が傷つくことになったとしても。それがきっと、相手にとって一番良いはずだから。




「そうだとしても、やっぱり遥貴さんが羨ましいな」





「どうして?」




「いつも、如月の一番近くに入れて……そして何より、如月が一番心を開いてる人だから」




「そう、だね……」





唯一楽しく話せるのは、今のところ遥貴さんぐらいしかいない。だから、遥貴さんにだけ心を開いているのかもしれない。





「でも、貴方は出会ったばかりの人だから……そうじゃないのは、当たり前だと思う」




「まぁ、それもそうだな」





ところで、と彼は話を続ける。





「如月はどうして俺をここに呼んだんだ?」




……自分が連れてきたという事をすっかり忘れていた。




あの時は、何故か帰ってほしくなくて、咄嗟に手が出ただけなんて言えない……





「もしかして、理由はないのか?」





「ごめん……」




申し訳なさすぎて、俯く。





「別にいいよ。如月と話せただけですげぇ嬉しかったし」





彼は私を見ながら柔らかく微笑んだ。





その表情に、思わずビクッとしてしまう。





……何か、何かないかな。





色々考えていると、はっと思いついた。




「せっかくだから、私ピアノ弾く。何の曲がいい?」



< 13 / 100 >

この作品をシェア

pagetop