光の差す暗闇で私は音を奏でたい
そんな事だけで、人をそこまで信用出来る人はそうそういないはずなのに……彼はそうだった。
「小林様がいて下さるなら、安心できますね。では、俺はこれで失礼します。二人でごゆっくり」
遥貴さんはそう言い残して、部屋を去っていってしまった。
また少し、私達の間に沈黙が流れる。
遥貴さんがいる時は大丈夫なのに、彼と二人きりだと何か落ち着かない……一体どうすれば……
「如月は、遥貴さんの事が好きなのか?」
「……えっ?」
急に質問されて、驚いてしまう。
私の表情を見て、彼はふっと笑う。
「そんなに驚く事ないだろ。ただ、普通に質問しただけなんだけど」
私は下を向き、少しして視線を上げた。
「遥貴さんの事は、普通に好きだけど……?」
「……そうか」
「うん。遥貴さんは私にとって、大切な執事さんだよ」
そう言ったけれど、私は少し悲しくなって、思わず下を向く。
「何か、あったのか?」
「前までは、今の関係ではなく、普通に友達だったの。けれどある日、遥貴さんがそういう関係を望んだんだ。だから私も、それを受け入れて、そういう関係になった。……ただ、それだけだよ」
「……そうか」
「うん」
自分にとって大切な相手が望むことを私は尊重したい。
それがたとえ、自分が傷つくことになったとしても。それがきっと、相手にとって一番良いはずだから。
「そうだとしても、やっぱり遥貴さんが羨ましいな」
「どうして?」
「いつも、如月の一番近くに入れて……そして何より、如月が一番心を開いてる人だから」
「そう、だね……」
唯一楽しく話せるのは、今のところ遥貴さんぐらいしかいない。だから、遥貴さんにだけ心を開いているのかもしれない。
「でも、貴方は出会ったばかりの人だから……そうじゃないのは、当たり前だと思う」
「まぁ、それもそうだな」
ところで、と彼は話を続ける。
「如月はどうして俺をここに呼んだんだ?」
……自分が連れてきたという事をすっかり忘れていた。
あの時は、何故か帰ってほしくなくて、咄嗟に手が出ただけなんて言えない……
「もしかして、理由はないのか?」
「ごめん……」
申し訳なさすぎて、俯く。
「別にいいよ。如月と話せただけですげぇ嬉しかったし」
彼は私を見ながら柔らかく微笑んだ。
その表情に、思わずビクッとしてしまう。
……何か、何かないかな。
色々考えていると、はっと思いついた。
「せっかくだから、私ピアノ弾く。何の曲がいい?」