光の差す暗闇で私は音を奏でたい
そう言うと、彼の表情が明るくなった。
「……じゃあ、パッフェルベルのカノン、弾いてほしい」
「分かった」
部屋にある白いピアノまで移動し、そこにある椅子に腰掛ける。
蓋を開けて、鍵盤に被せていた赤い布を取り人差し指で鍵盤を鳴らす。
……うん、良い音だ。
私は両手を鍵盤の上に置き、目を閉じてふぅーっと深呼吸をする。
私は目を開けた瞬間、ピアノを弾き始めた。
カノンとは、音楽では輪唱のように複数の同じメロディーをずらして演奏する技法であり、またはその様式の曲だ。
簡単に言えば、主題の追いかけっこのようなもの。始めに弾いた方のメロディーを反対の手で少しタイミングをずらして弾く。
カノンは要するにそれの繰り返しだ。
カノンで作られている曲はたくさんあるが、このパッヘルベルのカノンが一番代表的なものと言っていいほど有名な曲。
今では、卒業式などのイベントで多用されている。
この綺麗なメロディーが、多くの人々に愛されているということなのだろう。
何せこの曲は、人々の心を掴みやすいと言われている「大逆循環」というコード進行で作られているのだから。
出だしはゆっくりと弾き始め、サビの盛り上がりで早いメロディーに変わり、強く弾く。
全体的にゆったりとしている曲だが、徐々に細かく動き、そして最後は気持ちよく終わる。
それが、パッヘルベルのカノンだ。
……弾き終わり、鍵盤から指をすっと離す。
コンクールには出なくなった私だけれど、やっぱりピアノを弾くのは気持ちがいい。
ふぅーっと一息ついていると、聞いていた彼がパチパチと拍手をしてくれた。
「……やっぱり如月に合うな、この曲。俺、如月の演奏聞いた時からこの曲が合うと思ってたんだ」