光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「そうだったのね。でも、この曲はそういう風に作られているだけだよ」
「知ってる。けど、だからこそ如月が弾くとこの曲がより一層綺麗に聞こえるんだ」
私が弾くから……?
彼には、私のピアノがそんな風に聞こえているんだ。
「正直、如月のピアノをこんなに近くで聞けるなんて思ってなかった。……ありがとな」
「私が小林君に聞かせたかっただけだから、礼なんていらないよ」
「……やっと、俺の事呼んでくれたな」
「……え?」
「如月、気づいてなかったのかもしれないけど、さっきまでずっと俺の事貴方って言ってたからな。名前は全然呼んでくれなかった」
自分では気づかなかった。無意識のうちに、小林君の事をそういう風に呼んでいたんだ、私……。
「まぁ、呼んでくれたからいいけどな。でも、呼んでくれたって事は俺と仲良くしてくれるって事だよな?」
「別にそういう訳じゃ……」
小林君から言われたことに対して、少し戸惑ってしまう。……この人、意地悪だ。
「……じゃあ、少しだけ」
人との繋がりを求めないとは言ったけれど、それでもやっぱり今日少しでも楽しかったと思ったのは事実だ。
だから、小林君の希望に少し答えてあげてもいいのかもしれないと思った。
小林君はふっと笑う。
「じゃあ、これからよろしくな」
そう言って私の方に手を差し出してくる。
私はその手をじっと見て、そして小林君の手を握った。
「うん、よろしく」
窓から映し出されている夕日は、いつもより輝いて見えた。