光の差す暗闇で私は音を奏でたい
第1章 出会いと始まり
転校生
日差しが強くなり、汗ばむ季節となった今日この頃。
私はいつもと変わらず教室に入り、窓側の一番後ろの席に座る。
ここが私の今の席であり、私の大好きな席でもある。
……はぁ、暑い、溶けそう。
気が抜けて机に自分の顔をふせる。
……夏なんて大嫌いだ。
暑くて、眩しくて何もいいことなんてありはしない。
この明るい季節は、地味な私にとって場違いだ。
……でも、この学校はピアニストとしての私でいなくて良いから、そう考えるととても居心地のいい場所だ。
ここにいる人達は何も知らないのだから。私の過去に何があったかなんて。
私はもう、前の学校のように息苦しい生活をしたくない。だから私は、この学校では地味に過ごして、自分からは人に関わらないようにすると決めたのだ。
それから私は、いつも伸ばしていたラベンダー色の髪を三つ編みに縛って、伊達メガネをかけて登校している。
そして、この学校に来て一年ちょっとが経った。今はもう、高校二年生だ。
いっそのこと空気になれたら……一番楽なのにな。
そんな私と比べると、皆は毎日楽しそうで、幸せそうで、キラキラしてて……。
私はそんな世界に踏み込めない。
「おーい、皆席につけー!今日は転校生を紹介する」
皆がはしゃぐ中、静かにコツコツと足音が教室に響き渡る。
その音は、何故か他の人とは違う、私の知らない音だった。
「小林夏向(こばやしかなた)です。……よろしく」
彼の黒髪がさらりと揺れる。
その人は綺麗な顔立ちをしており、クールな雰囲気を漂わせていた。
彼の容姿を見て、女子が感嘆の声をあげる。
……この人も、皆と同じ。
前を見ていられずに、下を向く。
あの人も、愛される側の人間だ。
少し気になったけど、でも……。
私には到底近寄れない存在だ。