光の差す暗闇で私は音を奏でたい


屋上に着き、私達は息をきらす。……こんなに走ったのは久しぶりだ。疲れてその場に座り込んでしまう。




「悪い如月……スピード出しすぎた」



「大、丈夫だよ……」



小林君も私の隣に座り込む。




優しく吹いていた風が、すごく心地よかった。



「真剣に走った後って、こんなにも風が涼しいんだね」




私は雲ひとつない空を見上げながら、小林君に向けてそう言った。



「そうだな。特に今日は、今までで一番涼しい」




私達はしばらく、空を見上げながらゆっくりと休んだ。



「……昼ご飯、食べるか」



「そうだね」




私は袋から弁当箱と箸を取り出し、弁当箱をパカッと開ける。



箸で卵焼きを掴み、口の中に放り込んだ。



出汁の味が口の中でジュワッと広がる。



……美味しい。




「……やっと、落ち着いたみたいだな」




「えっ?」




小林君の方を見ると、彼はすごく優しい表情で微笑んでいた。




……もしかして、私が少し気分が暗かったから連れ出してくれたのだろうか。





「……ありがとう」





「別に、礼なんていらねぇよ」




小林君は上を見ながらそう言った。



屋上は、とても静かで時間さえも忘れてしまう。




学校の唯一素敵な眺めの、静かな場所。




ここに来れば、私の悩み事なんて小さなものに見えてしまう。



だって、空がこんなにも広いのだから……。




「如月はさ、もうピアノのコンクール、出ないのか?」



「どう、かな……分からない。今はまだ考えてる」




「そうか」




ピアノコンクール……私が少しトラウマになっている場所。



過去の事で、まだ今も引きずっている。




……三年前、私が最後に出たコンクール。



いつも通り、私は本番ピアノを弾いた。
皆からのプレッシャーもあり、少し緊張していたのだと思う。



それでもミス一つせず、最後まで弾ききった。
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