光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「分かった。じゃあ、私の家でする事にするよ」
「サンキュー」
小林君はそう言うと、何故か視線を落とした。
さっきまでのオーラは、どこへ行ったのだろうか。
「……どうしたの?」
私が声をかけると、小林君は視線をこちらに向けた。
「何か、俺達仲良くなったはずなのに、まだ他人行儀みたいだなって思ってさ……」
確かに、まだどこか堅苦しい話し方になってるのかもしれない。
「だからさ、如月の事幸音って呼んでもいいか?」
「えっ?」
……思えば、今まで私の事を名前で呼んでくれた人はあんまりいなかった。いたとしても、数えるくらいの人数だ。
小林君のことは、ちゃんと信用してるし仲良くしたいと思っている。だから……小林君からそう呼ばれるのは、すごく嬉しいことだ。
「……うん、いいよ」
「じゃあ、これからはずっと幸音って呼ぶからな」
「うん、分かった」
私からの返事を聞くと、小林君は座っていた席から立ち上がった。
「でも、その代わり……」
小林君はそう言って、私の机に手をついて顔を近づけてきた。
「幸音もちゃんと、俺の事名前で呼べよな」
私は目を見開いた。その瞬間、授業の始まりのチャイムが鳴る。
「俺、呼んでくれるの待ってるから」
小林君はそう一言言い残して自分の席に戻っていく。
……もう何年も、学校で誰かの名前を呼んだことがない。
……名前。たった三文字だけど、私にとってそれを言うのは結構勇気がいることだったりする。
もし、言うことが出来たなら私は少しでも、変われるのかな……。
そう思いながら、私は授業を受けた。