光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「右足、腫れてんじゃん。これじゃあ、歩けないね」
彼は持っていた半分の書類を、私が持っている書類の上に乗せて私をひょいっと抱き上げた。……お姫様抱っこだ。
「ちょっと……降ろして」
「降ろさない。そんな足で動けないでしょ。だから、黙ってこうされててよ。それに、あんまり動くと書類が落ちちゃうよー」
彼の言葉に、何も言い返せないまま、どんどん彼は歩いていく。
職員室の前に着くと、丁度私に書類を頼んだ先生が立っていた。
「如月、遅いと思ったら怪我したのか?」
「……はい。遅くなってすみません」
彼に抱き上げられた体制のまま、先生に書類を渡す。その時、彼が口を開いた。
「先生、いくらなんでも如月に雑用頼みすぎじゃないですか?俺、毎回見てる気がするんだけど」
……いつも、どこかで私が運んでいる姿を見かけていたのだろうか。そうだとしたら、私は今までずっと彼の存在に気づかなかったって事だ。
こんなに存在感があるのに、私は今までどうして気づかなかったんだろう……。
「そんな事はない。たまたまいつも近くにいるから如月に頼んでいるだけだよ」
「そんな事言って、本当は如月が気にしないで快く引き受けてくれるからでしょ?如月がよくても、如月は道具じゃないんだよ、先生」
彼から責められて、先生はバツが悪そうに下を向く。
「それにこの量。一人で運ぶには多すぎでしょ。もっと考えてあげなよ」
「……如月、悪かった。何も考えてなくて」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、如月保健室連れて行くんで。失礼します」
彼はそう言って、すたすたと歩いていく。
私には彼が何故そんな事を言ったのか不思議でたまらなかった。これまで、私と会ったことはあったとしても……関わったことは無いはずだ。
なのに、そんな彼がどうして私のために怒ったのだろうか。……分からない。