光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「……あぁ、そういえば今日、保険の先生いないんだった。俺、簡単な処置しか出来ないけどいい?」
「……いいよ、処置なんて。多分ほうって置けば治るから」
「お嬢様が何言ってんだか。如月の大事な足なんだから、ちゃんと手当しないと」
彼は私を椅子に座らせると、包帯と絆創膏、消毒液を持ってきた。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね」
そう言って、擦りむいて血が出てしまっているところにシュッと消毒をかける。
「……っ」
私は顔を歪ませる。……痛い。
「ごめん、あと少しだけ我慢して」
消毒液をかけたところには絆創膏を貼ってくれ、腫れている部分は丁寧に包帯を巻いてくれる。
「……ねぇ、何でさっき先生にあんな事言ったの?」
「えっ?」
「私と関わったこと無いはずなのに、何で私のために怒ってくれたのかなって思ったから……」
下を向いたままそう言うと、彼がふっと笑った。
「そんなの当たり前のことだよ。俺、確かにこれまで如月と話したことなかったけど、廊下でよく書類持って歩いてるところ、よく見かけてたからさ」
「……そっか」
「最初見た時はさ、偉いなーぐらいにしか思ってなかったけど、毎日やってるからさ……またやってんのって思い始めた」
そんなに、私の事をよく見ていたんだ。一回も彼を見た覚えが私にはなかった。教室にいた時とかなのだろうか。
「ああいう仕事は、頼まれないとやれない事だから、毎回如月に言ってるんだなって思って、つい腹が立ったからあんな事言ったんだ」
俺だったら絶対やらないのに、と一言付け加えて、はぁ、と溜息をつく。……こんな人もいるんだ。
「私、先生から頼まれて嫌だと思った事は一度もないよ」
「……え、マジ?俺余計なこと言った?」
私は首を横に振る。
「だけど、それでも私の事道具じゃないって言ってくれたの、嬉しかった。……ありがとう」