光の差す暗闇で私は音を奏でたい
~優斗目線~
如月を運び終わった俺は、一組の教室から出て廊下を歩く。
教室を出る直前、少しだけ見えた如月の表情は凄く驚いていた。
……俺の事、やっと気づいたみたいだ。
多分如月も、俺がどうしてここにいるのか不思議がってる頃だろう。
保健室で俺に礼を言った時の如月の顔がふと思い出された。
……如月も、やっぱりあんな風に笑えるんじゃん。ああいう表情、普段からしてれば皆と仲良くなれるはずなのにさ。勿体ない。
でも、自分の目でちゃんと確認する事が出来た。
ピアニストの如月幸音は、皆が言う程全く悪い奴じゃないってこと。
如月がすごい批判されていることを聞いて、性格でも変わったのかと思ったけど……全然変わってないじゃないか。
ただ、自信をなくして大人しくなっただけであって、如月はあの頃の……優しい女の子のままだ。
俺は頭を抱える。
音ヶ崎であった事、ピアノコンクールであった事……あれは多分、如月に対しての羨ましさが全部愚痴に変わって皆に伝染したものかもしれない。
……良かった、これで如月はそんな奴じゃないって証明ができる。
だけど、俺は一生如月に言えないかもしれない。
俺が……如月を知る為に、俺も音ヶ崎を辞めてここに来たって事を。
その事知ったら、如月はなんて言うかな。
でも、そんな事はどうでもいい。ただ……今日如月とちゃんと、話せた事だけが重要な事。
もっと、如月の事が知りたい。
高校に入ってからずっと、如月の事遠くから見てただけだったけど、今日偶然にも話すきっかけが出来た。
こんなチャンス、滅多にないよ。
だから、今度こそちゃんと彼女が向き合えるように……手を差し伸べたい。
そしていつか、如月が舞台の上で良い表情で笑っているところが見れるのを、俺はずっと願ってる。