光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「何でもないよ。ただ、小林君が羨ましいなって思っただけ」
「……そうか?」
「うん、羨ましいよ」
靴箱に着き、私は一旦降ろしてもらって靴に履き替える。
「あれ、如月だ!やっほー」
輝星君が手を振りながらこっちに歩いてくる。
「今帰り?」
「そうだよ」
「じゃあさ、俺と一緒に帰らない?俺もちょうど帰ろうと思ってたんだよね」
「悪いけど、俺が如月と帰るから」
輝星君の言葉を遮って私を引き寄せる。
急にグイッと引っ張られた事に少しびっくりしてしまった。
「……確か、君って最近転校してきた小林だったっけ?」
「そうだけど」
「ふーん……まぁ、いいや。今日は遠慮しておくよ。じゃあ、如月またね」
「うん、さようなら」
輝星君は私を見てニッコリと微笑むと、スタスタと帰っていった。
「俺達も行くか」
「うん」
そう言って、また小林君の背中に乗り、彼が歩き出す。
グラウンドには、部活動をしている生徒の声が響き渡っていた。
「小林君は、部活入らないの?」
「あぁ、入らない。そんな時間ねぇし」
「何か校外でやってるの?」
「バイト。俺、一人暮らししてるから。学費と家賃は親に払ってもらってるけど……多分、そうしてもらえるのも高校のうちだけだから、今のうちに貯めてるんだよ」
「そうなんだね……」
一人暮らし……。私には無縁すぎてどんな生活なのか想像が出来ない。だけど、私でも大変だということは分かった。
「だけど、テスト週間は全部休みにしてもらってるから。如月と勉強できるの楽しみにしてる」
「……うん」
小林君がそう言ってくれたことで、本当に楽しみにしてると言う事が伝わってきた。でも……小林君はそれで休めるのだろうか。