光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「……母である私を待たせるなんて、いいご身分になったことね」
「……ごめんなさい」
私は深く頭を下げる。
「まぁ、いいわ。今日は幸音に聞きたい事があってわざわざ帰ってきたの」
「……何でしょうか?」
そう言うと、お母様は座っていたソファから立ち上がり、コツコツとヒールの音を立てながら私の前に立つ。
「……貴方最近、ピアノのコンクールに出ていないそうね」
「……はい」
「何故、出ていないのかしら」
「……練習期間が、欲しかったのです。昔みたいに、またピアノが舞台の上で楽しく弾けるように」
その瞬間、パシンッと私の頬を叩く音が家の中に響き渡る。
私は思わず、叩かれたところを押さえながら顔を歪める。
「何を言ってるの、幸音!ピアノの世界は、そんな事でやっていけるほど甘くないわ!」
お母様は私に向かってそう怒鳴った。
「そんなくだらない事考えてる暇があったら、その分コンクールに出て、ピアノをたくさん弾きなさい!時間の無駄だわ!」
「……はい」
私は、そう答えるので精一杯だった。
お母様は私に背を向けて数歩、歩くとまた足を止めた。
「……幸音、来月にあるコンクールに必ず出なさい。練習期間が長かったのだから、これくらいできて当然よね?もちろん、一位じゃなきゃ許さないわ」
お母様は、力強く私の方を見る。
「私も当日、審査員として公平に審査するわ。だから、私の心が震えるような演奏してちょうだい。分かったわね?」
「……はい、お母様」
私が返事をすると、お母様はまた家から出て行った。
それを見た瞬間、力が抜けてその場に座り込む。
「お嬢様!大丈夫ですか!?」
遥貴さんが座り込んだ私を支えながらそう言った。
「大丈夫、平気だから……」