光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「貴方は、何も分かってない。先に言っておくけど、人にはそれぞれ踏み込んではいけない領域ってものがあるの。……だからもう、私に話しかけてこないで」
ドアノブを回してバタンッとドアを閉め、早々と階段を下りる。
……誰かに私の事を打ち明けるなんて、もうしたくない。
また、嫌な事を思い出すだけだ。
ここの学校に通っている人は、ほとんどの人が私の事は知らないのだろう。誰も、ピアノの事について、触れてこなかったから。
だから、気が楽だった。
でも、彼は違う。
彼は、私がピアニストだということを知っている。
それが私にとって、どれだけ辛い事なのか、彼はきっと分からないだろう。
それは、私が幼い頃からずっと、ピアノで支配されているから。
___________________
……そして、今に至る。
「おい、如月。ちゃんと聞いてるのか?」
「聞いてる。一緒に帰るなんてお断りよ」
「……何で?」
昼休みに私が言った事、彼に伝わらなかったのだろうか。私は、そうする事で私と関わる事を辞めてくれると思っていたのに……。
突き放したはずなのに、何で……。
「周りの人、見てよ。皆、貴方と帰りたがってる。だから……」
「そんなの関係ないだろ」
私の言葉を遮って、彼はきっぱりとそう言った。
「……もう分かった。そんな如月の意思なんて、どうでもいい。行くぞ」
「え、ちょっと!」
彼は強引に私の手を引っ張り、教室から出る。
本当に、意味が分からない人。どうしてそこまでして、私の隣に立ちたいのだろうか……?
下を向いていると、彼が急に話し始めた。
「……俺は、如月の事結構前から知っている。そして、今の如月も……」
「今の私って……まだ会ったばかりじゃない」
「そうだな。如月とこんなに近くにいるのは、今日が初めてだ」
彼は少し嬉しそうに、優しい表情を浮かべた。