光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「けど、如月を見たのは初めてじゃない。如月が何でコンクールに出なくなったのかも俺は知ってる。だから……」
彼は一度立ち止まって、私の方を見た。
急に目が合って、思わずドキッとしてしまう。
「だから、如月と一度話したかったんだ」
……私には、その意味がよく分からなかった。その流れで、どうして私と話したいと思うのか、どう考えても理解し難いことだった。
「……貴方は本当に、よく分からない」
「ははっ、別に今は分からなくてもいい。如月は、色々とそういう事に関して鈍感そうだからな。ただ、俺は如月が今まで会ってきた人達とは違うって思ってくれれば十分だ」
彼の言っている事は、きっと嘘じゃない。
人を信用できなくなった私でも、そのくらいは分かった。
「……そっか」
どうして、そんなにも私にこだわるのかは分からないけれど、でも……
私の音は、誰かの心にちゃんと響いていたんだな……。
久しぶりに、心が温かくなった気がした。
私達は再び歩き出す。
「そういえば、如月はいつも歩きなのか?」
「違うよ。私はいつも、学校から一番近い公園まで送り迎えしてもらってる」
「そうだよな。如月はお嬢様だし、当たり前か。じゃあ、そこまで俺も着いていくよ」
「……うん」
本当に、何年ぶりなのだろうか。
こうやって、誰かと一緒に帰り道を歩くのは。
……少し、懐かしいな。
「お嬢様、お迎えに上がりましたよ」
その声に、ふと前を向く。すると、少し明るい茶髪がかった髪色の、綺麗な顔立ちをした人が私の目の前に立っていた。
私の執事の井上遥貴さんだ。
もう、こんな所まで歩いてたんだ。この道って、こんなにも早く着く所だったかな……。
「お嬢様、隣にいる方はどなたですか?」
「えっと、この人は……」
「俺は、小林夏向です。如月と同じクラスで……今日転校してきました。でも、俺はもう帰るんで。失礼します」
私が言いかけていた時、彼が先に言ってくれた。