光の差す暗闇で私は音を奏でたい
どうしてそんなに驚いているのか分からず、私は少し戸惑った。
すると、私の足元に私がかけていたはずのメガネが落ちていた。
「あっ、メガネ……」
メガネを取ってかけようとした時、輝星君が私の腕を掴み、それを止めた。
「輝星君?」
「やっぱり、そっちの方が如月って感じがする」
「……え?」
輝星君は、その体制のまま私を優しく抱き締めた。
「如月は、そのままの姿が一番いいよ」
近くでそう言われて、私は戸惑った。
「輝星君、ここには人いないけれど、一応廊下だから立とう?」
そう言うと、輝星君は名残惜しそうに私から手を離し、私と一緒に立ってくれた。
だけど、メガネを持っている手はまだ離してくれなかった。
「……この姿は、ピアニストの時でしか今は見せる勇気がないの。私のことを知っている人には、見られても平気だけど」
「……そっか」
輝星君は私から視線を逸らし、正面を向く。
「如月幸音。かつて、”人々に幸せな音色を奏でるピアノのプリンセス”と言われた天才ピアニスト。なのに、急に叩かれだして、二年前コンクールの舞台から姿を消した」
急に輝星君は話しだして、思わず彼の方を見る。
「俺は、それが心配で仕方がなかった。……如月がそうなったのって音ヶ崎での事がきっかけなんでしょ?」
「……何で、知ってるの?」
私は目を見開いた。中学の時通っていた音ヶ崎学園での事は誰にも話したことがない。
確かに私が通っている学校は、コンクールの時に配布される出演者名簿を見ればわかるけど……。
「俺も当時、音ヶ崎に通っていたんだ」
「……えっ?」
そうだ。彼も私と同じ音楽家だ。でも、輝星君はヴァイオリニスト。だから、ピアニスト専攻の教室とは棟が異なる。
それで、私は輝星君がそこに通っていたことに気づかなかったんだ。