光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「分かっていると思うけど、俺はヴァイオリニスト専攻だったから、棟が違ったし如月と学校での面識はなかった。」
輝星君は一度、間を開けてまた話し出す。
「でも一回だけ、廊下で如月とぶつかった事があってさ。その時、間近で見てもすげぇ綺麗な子だなって思ったよ」
輝星君は、でも……と言った。
「その時の如月は、苦しそうな顔をしてて、すげぇ気になったんだ。まぁ、俺は如月のピアノずっと好きだったからかもしれないけど」
輝星君も、私のピアノを好きでいてくれてたんだ……知らなかった。
「それで結局、俺は何もその事について知る事は出来ずにいた。……そんな時、如月が音ヶ崎を辞めるって噂が広がっていた。その時に、如月のこと全部聞いたんだ」
「そっか。じゃあ私、ずっと輝星君に心配かけてたんだね。……好きなピアニストがこんな弱くてごめんね。学校で虐められるなんて、格好悪いよね」
私はそう言いながら、笑顔が少し引きつっていることが自分でもわかる。
「ガッカリなんてしてないよ!逆にすごいと思った。嫌がらせ、結構前からあったはずなのにそれまでずっと我慢してたんだろ?それって、誰にでも出来ることじゃないよ」
「……でも結局、私はそこから逃げたんだよ」
「如月のその行動は正しいと思う。もしそのままあそこにいたら、きっと如月は完全に壊れてた。だから如月は、今はここで楽しい普通の学校生活を送ればいい」
その言葉に、私は目を見開いた。
「ここは、音楽で縛られる事は絶対ない。だから、如月の好きな風に過ごせばいいんだ。如月がしたかった事をここで実現させればいい」
そう言う輝星君は、とても優しい表情をしていて、思わず心を打たれた。
少しだけ、涙が出そうになった。
「……ありがとう」
良いタイミングで、授業の予鈴が鳴る。
「やべっ、俺次移動教室だ」