光の差す暗闇で私は音を奏でたい
「そうだね……」
”一位じゃなければいけない”
……お母様から言われたその言葉が、ふと思い出される。その言葉が、少しだけ今の私を締め付ける。
私は、天才ピアニストの子供だからその肩書きに泥を塗る事は決して許されない。
もし、そんな縛りがなかったら、今も昔みたいに楽しくピアノを弾くことが出来ていたのかな……。
「なぁ、幸音。いきなり幸音がまた、コンクールに出るとか言い出したのって、お前の母親が言ったからなのか?」
図星をつかれて、思わずビクッとしてしまう。
「……何で分かるの?」
私がそんなに驚いている表情をしていたのか、夏向は私の表情を見てふっと笑い出した。
「そんなに驚く事か?俺はただ、コンクールをあの日から恐れていた幸音が何のきっかけも無しに突然出るって言うのは、不自然だなって思っただけだ」
夏向は一息ついてから、また話し始めた。
「だから、その幸音の態度を見て、幸音に母親が何か言ったんじゃないかって思ったんだ。だって、幸音はプロのピアニストの子供だ。そんな奴がピアニストになろうとしているのに、挫けている幸音を親がずっと放っておく訳ないだろ」
夏向が言った言葉に、私は言葉を返せなかった。……そんな事、今まで考えたことなかった。
私はずっと、プロのピアニストの子供だから、私もお母様のようにならなければいけないと思っていた。
お母様が色々厳しくしてくる事も、自分の子供が下手だと、自分の恥になるからだと……本当は、そうなのだろうか。
「幸音は、また一位を取らなければいけないと思っていたりするのか?」
「そうだよ。だってお母様が一位以外は駄目だと言っていたから……」
「そうか。だから、幸音のピアノ、前と少し違ったんだ」
「……えっ?」
……そんな素振りを、弾いていた時に夏向に見せただろうか。